●異分野に聞く
教育界以外の分野で活躍する方々に、教育に対する提言を聞く。各分野のエキスパートの世界観や人生観に学ぶ。

▼2000年8月25日掲載
 「続けることが自分の使命」
                漆刷毛工房ひろしげ 漆刷毛師9世泉清吉氏
 「漆は日本人の生活に密着した塗料だったんです。箸や椀といった生活用品から、ピアノのような大きなものまで、日本人の生活の中には漆が溶け込んでいたんです。戦時中は火薬を湿気から護るために爆弾の中にも漆が塗られていたんですよ」
 泉清二さん(49)は昭和25年に東京の文京区で生まれた。生家は代々漆塗りに使われる「漆刷毛(うるしばけ)」を作る職人の家だ。漆刷毛は1656年に、伊達藩江戸詰の武士だった初代の泉清吉が、それまで使われていた獣毛の筆に代え、人毛(髪の毛)の筆を考案。これが高い評価を得て、武士から職人に転業し、将軍家から御用提灯を拝領するまでになったという。先代・8代目の父親は人間国宝で名匠と言われた“漆刷毛つくりの名工”であった。
「私は4人兄弟の次男だったんですが、父は私達息子に職業を継げとは言いませんでした」
 そんな泉さんが漆刷毛職人になろうと思ったのは、大学を出て設計の仕事に就いてからのことだ。
「子どもの頃からもの作りは好きでしたね。きっと子どもの頃から父が仕事をする姿を見ていたからだと思いますよ。設計の仕事もものを作る仕事に違いありませんが、自分のやりたい「もの作り」は設計ではないと感じたんです。自分の手で作る『ハンドメイド』の仕事をしたかったのだと、設計の仕事をしてみて気づいたんです」
 23歳で父に弟子入りした泉さんだが、名工と言われる父親は何も教えてくれなかった。
「仕事を覚えるというのはそういうことなんです。失敗したり、やり方が分からなくて行き詰まったりする。そこから自分の頭や手を使って考えるんです。仕事が終わった後に、あまった材を使って木を削る練習も随分しましたね」
そんな泉さんが仕事をしていて一番嬉しいことは「こんなに使いやすい刷毛を使ったのは初めてだ」とお客さんに喜ばれた時だ。「良い刷毛と一言で言っても、誰が使っても使いやすい刷毛というのは無いんです。職人によっては個性や癖もあり、使い方も違います。同じような刷毛ばかり作っていて、なぜ飽きないのかと言われますが、同じような刷毛というのは無いんです。温度や湿度、素材の違いによって作り方も変えていかねばならないんですよ」
 泉さんの手で作り出される漆刷毛は全て『永久保証』だ。泉家では、代々制作した刷毛を永久保証にしてきた。「祖父や父が作った刷毛を修理することもあります。自分がいい加減な刷毛を作ってしまったら、未来の後継者に迷惑をかけてしまいます」泉さんは現在、日本で唯一人の漆刷毛職人になってしまった。
「需要が少なくても辞めるわけにはいきません。とにかく“この仕事を続けていくこと”が私の目標です」
過去の掲載
微生物の持つ可能性に心揺さぶられて (社)北里研究所 理事・所長 大村 智 氏
(2000年8月9日掲載)
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