●異分野に聞く
教育界以外の分野で活躍する方々に、教育に対する提言を聞く。各分野のエキスパートの世界観や人生観に学ぶ。

▼2001年11月7日掲載
「うちわ工房しまの・5代目当主/島野博行氏」
 「うちわ」から送り出される風は、なぜか優しい香りを含んでいるように感じる。夏になると、母があおぐうちわの風を子守歌として眠りにつく子ども。かつては、どこの家庭にもそんな光景が見られた。

 越生町は、うちわの生産地として知られていた町である。昭和の初期には、うちわの製造組合があったほどで、江戸時代からうちわの生産が行われていたと言われている。

「うちわの材料が越生の近隣で手に入ったことから、うちわ作りが盛んになったのでしょう。うちわの骨を編む井草は川島辺りで、和紙は小川町、竹は越生に沢山自生していたんですよ」

 島野博行さんは、越生にある「うちわ工房」の5代目当主である。竹の骨組みから切り出して、うちわにするところまで、全ての行程を行っている埼玉唯一のうちわ工房だ。

「代々がうちわ職人でしたから、子どもの頃も、父のうちわづくりをよく手伝っていましたよ。私は次男でしたから、いつかは家を出てしまう。だから、今のうちに手伝っておきたいという意識が働いていたんでしょうね」

 ところが、平成に入る頃から先代の体調が思わしくなくなり、兄と話し合って自分がうちわ制作の技術を引き継ぐことにした。

 「野口雨情が『越生名物生絹とうちわ 誰が着るやら使うやら』と、小唄の中で歌ったほど、越生のうちわは有名だったのです。ところが、昭和30年代には扇風機が登場し、40年代半ばを過ぎるとクーラーが普及し始めました。電化製品の進出で、うちわの需要はどんどん減っていきました。私が子どもの頃は、うちわ製作に関わっている家が50軒近くありましたが、今はうちだけになってしまいました」

 うちわづくりの工程は、山に入るところから始まる。竹を切り、柄の部分を切り出し、骨を割り出し、骨を放射状に編み込んで、紙を貼る。

「この作業には、人生と似たところがあるんです。骨を放射状に編み込む時は、修正を加えながらじっくりと形を作っていきます。一方で、最後に縁の部分を切り落としてうちわの形を仕上げる時には、一気に切り落とすため修正がきかないのです。人生の中にも、修正がきくところがあれば、修正がきかないところもあるでしょう」

一言でうちわと言っても、実際に目にすると、形、大きさ、紙質と1本1本に異なる個性がある。涼むためのうちわもあれば、ウナギや焼き鳥を焼くうちわ、そして、お祭りに使う大うちわもある。かつては、生活文化の中にうちわが溶け込んでいたのだ。因みに、テレビ番組「どっちの料理ショー」でウナギを焼く時に使われたうちわも、島野さんの手によるものだ。

 「ここでは、うちわづくりの体験教室も開いています。お子さんや中高年の方が、自分だけのオリジナルうちわを完成させて、歓喜の声を上げた時が一番うれしいですね」。

 “日本の夏”を象徴するうちわを、後世に残して行ってもらいたいものだ。  
過去の掲載
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